2024.09.12
ターゲットの心をつかむキャラクターデザインを分析。あの人気キャラが可愛い理由とは?
- ナレッジ・ノウハウ
なぜ「可愛い」のか?
可愛いと大人気の「ちいかわ」と「おぱんちゅうさぎ」。キャラクターファンでない方でも、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
近年SNSで急増するキャラクターの中でも、その姿を見ない日はないくらい人気なのがこの二つ。あの愛らしい姿を構成する要素は一体何なのか、紐解いてみましょう。
何気なく私たちが感じる「可愛い」には、人間の心理的な要因がたくさん詰まっています。
・見た目の要素
まず、見た目についてです。丸くてもっちりしていそうなフォルム、ずんぐりむっくりな2等身、ラフで手描き感のある有機的な線、シンプルなデザインなど、これらのキャラクターは共通して「ベビースキーマ」という人間や動物の赤ちゃんに見られる身体的な特徴を多く含んでいます。有機的な線は無機質な線よりも柔らかく、緊張感を解くようなゆるい印象を与え、ふわふわしていそうなキャラクターのフォルムと良く馴染んでいます。さらに、緻密な描写ではなくシンプルで素朴なデザインがラフな手描きの線と相まって「可愛さ」を演出しています。
・時代背景
次に、時代背景についてです。現代社会のストレスや不安から、癒しや安らぎを求める需要が高まっています。ほのぼのとした雰囲気や愛らしい外見を持つキャラクターが人気を集める理由の一つとして考えられるかもしれません。
一見すると、可愛いキャラクターは何でも万人に受け入れられるように思われがちですが、決してそうではありません。その背後には、様々なロジックや仮説検証があり、その結果、多くの人から共感を得やすいという構造になっていることが、これらの事例から読み取ることができます。
さて、人気キャラクターが企業広告に起用されることが多い昨今ですが、広告にキャラクターを活用する際には、いくつかの重要な注意点があります。
まず、共感を得やすいという理由だけで可愛いキャラクターを起用するのは避けましょう。ターゲットや広告内容と世界観が一致しない場合、利用者にマイナスなイメージを与えてしまう可能性があります。広告にキャラクターを活用する際には、ターゲットを明確に設定し、どのようなものが共感を得やすいのかをイメージしながらデザインを行うことが非常に重要です。
では、どのようにキャラクターと広告の世界観を合わせるべきなのでしょうか。そこで重要になるのが「トンマナ」に合わせたキャラクターデザインです。
トンマナって何?
具体例を挙げて解説する前に、まず「トンマナ」についてお話しします。webや企業ブランディングなどでよく紹介されているため、ご存知の方も多いかもしれません。トンマナとは、トーン(色合いや調子)&マナー(作風や様式)の略語で、デザインの一貫性を指します。
広告においては、単にデザインを一貫性のあるものにするだけでは不十分です。企業の雰囲気、ターゲット層、持たせたいイメージなど、すべてを考慮してベースとなるトンマナを整える必要があります。私たちはアニメーション広告案件においても、グラフィックの制作から映像全体のトンマナを最初にしっかりと設定して制作に取り組んでいます。
ターゲットに合わせたキャラクターデザイン
ここからは、前述のロジックに基づき、自社で関わった広告映像で制作したキャラクターのデザイン工程についてお話しします。
今回求められたトンマナは、幅広い世代に受け入れられやすく、親しみやすい雰囲気を持ちながら、お金を取り扱う企業としての信頼感やきちんとしたイメージを保つことです。そのため、形状はシンプルにしつつ、少しだけポップな色合いでバランスを取ったキャラクタートンマナを最初に設定しました。これに合わせてイメージしたキャラクターは「ピクトグラム」です。一目でわかるシンプルなデザインは、年代を問わず受け入れられやすく、今回の目的にぴったりだと考えました。
その特徴を土台に、まずは簡単なキャラデザインを作成しました。 しかし、構成上キャラクターが複数登場し、それぞれの役職を識別する必要があるため、単純化されすぎたピクトグラムでは違いを表現しづらくなってしまいます。そのため、髪の毛や服装の描写を加え、男女や役割が分かりやすいように具象化させました。具象化に伴い色数を増やし、堅い印象を払拭するためにポップな色合いを選びました。ここからは、どれくらい描写を細かくするかのバランスが重要になってきます。
ピクトグラムを最も抽象的なデザインとして、A〜Dの段階で具象度が上がるデザインを作成しました。この中から選ばれたのはBとCタイプです。しかし、頭が大きく等身が低いため、野暮ったい印象を受けます。スタイリッシュに見えるように、頭を小さくし、体や足を細く長くして等身を高くしたデザインが以下になります。
この新しいデザインでは、表情やワイシャツの襟、スーツの線、腕の重なりの線など、細かい描写を取り除きました。トンマナで設定したピクトグラムらしさを保ちながら、必要最低限の描写で成立するデザインを心がけました。こうすることで、ずんぐりむっくりとしたキャラクターが可愛さを保ちつつも、印象がすっきりとしています。
左のB案は角ばったデザインははかっちりした、秩序ある印象を感じられますが、関節の硬そうなフォルムがロボットのような動きを想像させ、ポップなイメージからは遠のきます。今回のトンマナでは親しみやすさも重要な要素の一つなので、無機質なB案よりも丸みがあり、力を抜いた印象が安心感を与えられる、C案が採用されました。
試行錯誤を重ね、ついにキャラクターデザインが完成しました。ピクトグラムのシンプルさを保ちつつ、無機質にならないように肩や腕に丸みを持たせて、可愛さと親しみやすさをプラスしました。これにより、柔らかい動きを想像させるデザインになっています。不要な要素は徹底的に排除し、鮮やかな色彩や細かいディテールでデザインにアクセントを加えました。また、気持ちの良い滑らかな曲線を意識し、細い線は使わず基本的には面で構成しています。
加えて、キャラクターアニメーションの場合は、静止画だけでなく動きのデザインもキャラクターの印象を左右する重要な要素です。例えば「若者に向けたスタイリッシュな映像」をテーマにアニメーションさせたい時、ゆっくりノロノロとしていたり小さな動きでは、いきいきとした若々しさを表現できません。動きの速さに緩急をつけて、動作をダイナミックにしてあげることで若々しさを演出し、いきいきとした元気な印象に近づきます。一方、「幅広い年代に向けたわかりやすい映像」がテーマの場合は、速すぎず緩急の大きすぎない動きのアニメーションにすることで、小さい子やお年寄りの方にも見やすく、より深い内容理解が可能です。
キャラクターデザインで掴む、広告戦略
今回は、多くの人々に「可愛い」と支持されるキャラクターを通じて、そのデザイン要素を紐解いてみました。
これまでにお話ししたように、「可愛い」という印象は単なる偶然ではなく、キャラクターごとに多様な「可愛さ」があり、そのデザインにはすべて理由があります。キャラクターのフォルム、色彩、動きなどのビジュアル表現を論理的に設計し、トンマナを統一することは、ターゲット層に共感を得るために非常に重要な広告戦略です。この共感が心を動かす原動力となり、人々の行動を促します。
弊社では、このような広告表現を追求し、緻密なデザイン設計にこだわり続けています。企業プロモーションにキャラクターアニメーションを活用することも、未来に向けた効果的な手段かもしれません。弊社のデザインがターゲットの心に響く広告戦略となるよう、これからも努力を続けてまいります。
編集者:高橋直貴